キッチンリフォームを検討していると、必ずといっていいほど直面するのが「IHにするかガスコンロのままにするか」という選択です。「IHって本当に使いやすいの?」「光熱費はどちらが安い?」「工事費が高くなると聞いたけど…」という疑問を抱えている方は多いと思います。
筆者自身も中古戸建てのリノベーション時にこの選択に悩みました。既存のガス管をどうするか、電気の容量は足りるか、使い慣れた土鍋が使えなくなるのか。調べれば調べるほど、単純な「どちらが優れているか」という話ではなく、住まいの状況や生活スタイルによって答えが変わることに気づきました。
この記事では、スペックの数値比較にとどまらず、「その差が実際の暮らしにどう影響するか」を軸に両者を整理します。
こんな人はIH・こんな人はガスコンロ
読者のタイプによって最適解は異なります。先に結論を示します。
IHがおすすめな人
- 小さな子どもや高齢者と同居している:炎が出ないため、やけどや火災のリスクが大幅に下がります
- 掃除の手間を減らしたい:天板がフラットなため、吹きこぼれても拭くだけで済みます
- オール電化・太陽光発電と組み合わせたい:ガス基本料金をゼロにすることで月々のコストを抑えられます
- 夜間電力プランを活用したい:IHに切り替えてオール電化にすると、夜間電力が安いプランを選べます
- キッチンの温度上昇を抑えたい:熱効率が高い分、余計な排熱が少なく夏場の暑さが和らぎます
ガスコンロがおすすめな人
- 炒め物・強火調理が多い:最大火力4.2kW(IHは最大3.2kW)で、強火で手早く仕上げたい料理に向いています
- 土鍋・鉄製丸底中華鍋を日常使いしている:IHは底が平らな鍋しか対応しないため、道具の買い替えなしで使い続けられます
- 停電時もキッチンを使いたい:電気が止まってもガスがあれば調理できます
- 工事コストを最小限にしたい:ガスコンロの交換工事は本体込みで5〜19万円と、IH化より低コストで済みます
- 賃貸・集合住宅でガス契約が固定されている:ガス会社との契約上、変更が難しい場合があります
調理性能を比較する
IHとガスコンロで最もよく議論になるのが火力です。数値だけ見るとガスコンロに軍配が上がります。ビルトインガスコンロの主流機種(リンナイ デリシア、ノーリツ プログレ、パロマ リプラなど)のハイカロリーバーナーは4.2kWが標準で、左右両バーナーに搭載しているモデルも多いです。一方、IHクッキングヒーター(パナソニック、日立など)の最大火力は3.0〜3.2kWにとどまります。
この0.9〜1.2kWの差は、炒め物や揚げ物のような高温・短時間調理では体感しやすい差です。プロの料理人がガスにこだわる理由のひとつもここにあります。
ただし、加熱の「総量」で考えると話が変わります。ガスコンロの熱効率は省エネ法対応の最新機種でも約51〜57%であるのに対し、IHは約90%。つまりIHは投入エネルギーの9割が鍋に伝わりますが、ガスコンロは半分近くが炎の排熱として逃げています。シチューやカレーのような時間をかけて加熱する料理では、IHのほうが実質的に速く効率よく火が通ることもあります。
鍋の対応はIHの大きな制約です。通常のIHは鉄・ステンレス・ホーローの底が平らな鍋にしか対応していません。アルミ鍋・銅鍋・土鍋・陶磁器・耐熱ガラスは使用できません。「オールメタル対応IH」ならアルミ・銅も使えますが、最大火力が80〜90%に落ちる点と、土鍋・陶器は依然として使えない点に注意が必要です。
丸底の鉄製中華鍋を使って本格的に炒め物をしたい方には、正直IHは向きません。底が平らなフライパンで代用できますが、同じ仕上がりになるかは人によって評価が分かれます。

光熱費の実態:電気代 vs ガス代
「IHに変えたら光熱費はどうなるか」は多くの方が気にする点ですが、単純に「安くなる」とも「高くなる」とも言えません。電力・ガス料金プランと使用頻度によって大きく変わります。
熱効率の観点では、IH(約90%)とガスコンロ新型(約55%)の差は大きく、同じ量の料理を作るならIHのほうがエネルギーを効率的に使えます。
ただし、キッチンだけを単体で見てもあまり意味がありません。IH化で大きなコスト削減が期待できるのは、ガスをオール電化に切り替えることでガスの基本料金(月1,000〜2,000円程度)をゼロにできる場合です。給湯もエコキュートに変更すれば、ガス代そのものがなくなります。
逆に、ガス給湯器やガス暖房を使い続けながらコンロだけIH化する場合は、ガスの基本料金が残ったままになるためコスト面のメリットは限定的です。この点は意外と見落とされがちなので、注意が必要です。
電気料金プランの選び方も重要で、夜間電力が安いオール電化向けプランを活用することで光熱費を抑えやすくなります。実際にどれだけ変わるかは、現在の電気・ガス料金を確認したうえで、電力会社のシミュレーターを使って試算することをおすすめします。
安全性とメンテナンスを比較する
安全性の面ではIHが明確に優位です。炎を使わないため、次のリスクがゼロになります。
- 袖やふきんへの引火
- ガスの不完全燃焼によるCO(一酸化炭素)中毒
- 消し忘れによる火災
IHには「Siセンサー」と呼ばれる安全装置が全機種に搭載されており、鍋の温度が異常に上がると自動で加熱を止めます。小さな子どもや高齢者のいる家庭では、この安全性の差は非常に大きいです。
一方、IHにも固有のリスクがあります。電磁界(EMF)を発生させるため、心臓ペースメーカーを使用している方は一定の距離を保つ必要があります。詳細はメーカー・医師に確認してください。
メンテナンスのしやすさはIHが圧倒的です。ガスコンロはバーナーキャップ・五徳・グリルの受け皿など洗う部品が多く、特にグリルの油汚れは掃除が面倒です。IHはガラストップのフラット天板なので、調理後に水拭きするだけでほぼきれいになります。毎日の掃除の手間を考えると、この差は思いのほか大きいと感じます。
耐用年数はどちらも10〜15年程度が目安です。
リフォームの工事内容と費用
工事費の差が、IH化を躊躇させる最大の理由になっています。費用感をまとめます。
IHへの交換費用
IHへの交換で費用がかかる主な理由は、200V電源の引き込みが必要な場合が多いからです。ガスコンロは100Vで動きますが、IHは200Vが必要です。
| 状況 | 工事費目安(本体除く) |
|---|---|
| 200V電源が既設(IH→IH等) | 1.5〜3万円 |
| 分電盤に空きあり(単相3線式配線済み) | 4〜7万円 |
| 分電盤交換が必要な古い住宅 | 8〜15万円 |
本体費用(8〜25万円)と工事費を合わせると、総費用は15〜35万円程度が一般的な目安です。
築年数が古い住宅(1980年代以前)の場合、単相2線式の配線のまま残っている物件があり、その場合は分電盤ごとの交換が必要になります。事前に電気工事業者に現地調査を依頼して見積もりを取ることをおすすめします。
ガスコンロの交換費用
ガスコンロ同士の交換は工事がシンプルです。本体費用4〜18万円に工事費1〜2万円を加えた総費用5〜19万円程度で収まります。同サイズへの交換なら半日程度で完工します。ただし、コンロ幅が現在のものと異なる場合(60cmから75cmへの変更など)はキャビネットの改修が別途必要になります。
キッチンリフォームの費用相場をもっと詳しく知りたい方はこちら
補助金・省エネ支援制度(2026年版)
2026年時点で、IHクッキングヒーターが対象となる主な補助金制度を確認します。
みらいエコ住宅2026事業(国土交通省)
IHクッキングヒーターは「エコ住宅設備」としてみらいエコ住宅2026事業の補助対象に含まれています。
ただし、2026年度から重要な条件が加わりました。窓・ドアの断熱改修を含む工事とセットであることが申請の必須条件になっています。キッチン設備の交換だけでは申請できません。
これはどういう意味かというと、「窓の断熱リフォームと同時にIHも交換する」という計画であれば補助を受けられますが、「IHだけ交換したい」という場合は対象外ということです。窓断熱もあわせて検討している方にとっては、IH交換のコストを一部補填できるメリットになります。
補助額は製品や工事内容によって変わるため、公式サイト(みらいエコ住宅2026事業)で型番検索して確認してください。
給湯省エネ2026事業(経済産業省)
給湯省エネ事業はエコキュート・ハイブリッド給湯機・エネファームが対象であり、IHクッキングヒーター単体は対象外です。
省エネリフォーム補助金を複数組み合わせて活用する方法については、省エネリフォーム補助金まとめ記事も参照してください。
リフォームでIHを選ぶときの判断フロー
実際にリフォームでIH化を検討する際に確認すべき点を整理します。
Step 1:現在の電気契約を確認する
まず電力会社との契約アンペア数と、分電盤の状況を確認します。IHは一般的に30〜40Aの専用回路が必要です。現在の分電盤に空きがあるか、単相3線式の引き込みになっているかを確認しましょう。マンションの場合は管理規約でIH化が制限されていることがあるため、管理組合への確認も必要です。
Step 2:オール電化にするかどうかを決める
IHにするだけ(ガスの給湯は維持)か、給湯器もエコキュートに変えてオール電化にするかで、工事規模・費用・光熱費のメリットが大きく変わります。コスト削減を主目的にするなら、オール電化とセットで検討するほうが効果的です。
Step 3:ガス管の処理を決める
ガスコンロをIHに替え、ガス給湯器も撤去する場合は、ガス管の閉栓・撤去工事が必要です。費用は5,000〜10,000円程度ですが、撤去後は元に戻せないため慎重に判断してください。一方、ガス給湯器や暖炉など他のガス機器を残す場合は閉栓は不要です。
Step 4:現在の鍋・調理器具を確認する
土鍋・アルミ鍋・銅鍋・丸底の鉄製中華鍋を多用している場合は、IH化後に買い替えが発生します。アルミ・銅鍋をどうしても使い続けたい場合はオールメタル対応機を選ぶことで対応できます。
筆者の体験として、リノベーション後にIHにした際、愛用していた土鍋が使えなくなったのは少し残念でした。IH対応の土鍋(底部に金属板を内蔵したタイプ)も市販されていますが、価格は高めです。道具へのこだわりがある方は、事前にチェックリストを作っておくことをおすすめします。

まとめ:IH vs ガスコンロ 比較一覧
| 比較項目 | IH | ガスコンロ |
|---|---|---|
| 最大火力 | 3.0〜3.2kW | 4.2kW |
| 熱効率 | 約90% | 約51〜57%(最新機種) |
| 対応鍋 | 鉄・ステンレス・ホーロー等 | 全素材・全形状 |
| 安全性 | 炎なし・Siセンサー搭載 | CO中毒・引火リスクあり |
| 掃除のしやすさ | ◎ フラット天板 | △ 部品が多い |
| 交換工事費(本体除く) | 1.5〜15万円(状況による) | 1〜2万円 |
| 本体費用目安 | 8〜25万円 | 4〜18万円 |
| 停電時 | 使用不可 | 使用可能 |
| 補助金(2026年) | みらいエコ住宅対応(条件付き) | なし |
よくある質問(FAQ)
Q1. IHに変えると電気代はどのくらい変わりますか?
コンロ単体の切り替えでは、電気代の増加と光熱費全体への影響はケースによって異なります。IHの熱効率(約90%)はガスコンロ(約55%)より高いため、同じ調理量なら消費エネルギーは少なくなります。ただし光熱費全体を削減したいなら、給湯もエコキュートに変えてオール電化にし、夜間電力の安いプランを活用することがポイントです。コンロだけIH化してガス基本料金が残ると、節約効果は限定的です。
Q2. ガスコンロからIHへの交換工事は何日かかりますか?
電気設備が整っている住宅であれば、1日(当日完工)が目安です。200V電源の引き込みや分電盤の交換が必要な場合でも、通常は1〜2日で完工します。築年数が古く電気設備の改修が大きい場合は、事前の現地調査で日程を確認してください。
Q3. IHクッキングヒーターに使えない鍋はありますか?
通常のIH(鉄・ステンレス対応)では、アルミ鍋・銅鍋・土鍋・陶磁器・耐熱ガラスは使用できません。また底が平らでない鍋(丸底の中華鍋など)は安定加熱ができないため実用的ではありません。アルミ・銅鍋を使い続けたい方は「オールメタル対応IH」を選ぶことで対応できますが、土鍋・陶器はオールメタル機でも使用不可です。
Q4. 賃貸住宅でもIHに交換できますか?
賃貸住宅でのビルトインコンロの交換は、原則として大家・管理会社の許可が必要です。また電気容量の増設工事(200V化)は建物の設備改修になるため、多くの場合は許可が得られないか費用負担の問題が生じます。賃貸住宅では、コンセント接続式の卓上IH調理器を使うほうが現実的です。
Q5. ガスコンロとIHで火力(最大W数)に差はありますか?
差はあります。ビルトインガスコンロの主流機種は4.2kW(ハイカロリーバーナー)、IHクッキングヒーターは3.0〜3.2kWが最大です。瞬間的な最大火力はガスが1kW程度高く、強火で手早く仕上げる炒め物・揚げ物では違いを感じやすいです。一方、熱効率(IH約90% vs ガス約55%)を考慮すると、煮込みや長時間加熱では実質的なエネルギー投入量はIHのほうが少なくなります。
